【ブログ】外国為替市場の介入に向かう心構え

円は安い

2026年7月にドルは、1ドル163.99円まで買われた。なんと39年8か月ぶり、1986年11月以来のドル高円安水準である。それだけ円を売る人が多いということになる。物の価格は、実需であれ、投機であれ、売りたい人が買いたい人より多ければ、下がってくる。例えば通貨の価格では、円を売りたい人(=ドルやユーロなどの外貨を買いたい人)が、円を買いたい人より多い場合、円の価値はどんどん下がり、円安(例えば150円から170円)になる。

介入の役割

では、なぜ円安になるのだろうか。世界的に、「日本円は持つべき通貨ではない」という投資家、投機家はじめ、企業、個人までこの見方を持つ参加者が増えているからである。筆者は、「お金は高いところに流れる」と、いつも言っている。持っていたら価値が下がっているとしたら、誰も円を持ちたくないはずだ。もし日本政府がそう思うならば、円の価値を上げる行動に出るはずだ。その一つが「介入(役所用語は「外国為替平衡操作」)」である。今は、円の金利を上げ、日米金利差も調整させることが焦点になっているが、国の信用のベースは、安定的なGDP成長を持つ経済ファンダメンタルズを維持していくことだ。併せて貿易収支や国家財政の改善姿勢が求められ、結果として国の信用格付け(現在は、シングルA)が引き上がっていくことが期待される。要は、日本に対する信任を上げることが円の安定につながる。

2026年の介入

 今年はすでに実質4回、日本政府は市場にドル売り・円買いで外国為替市場に参加してきた。通常は民間ベースで為替取引が行われるが、相場が異常であると(政府が)判断した時に、その意思表示として自ら売買を行う。これが「介入」である。

今号では、(イ)介入の決定と操作の実態、(ロ)介入の種類、(ハ)介入成功の要素、(ニ)今年の介入実績、(ホ)介入時の心構え、について筆者の経験を述べたい。

(イ)介入当日は事実が発表されない

介入の決定権は政府・財務大臣にある。実質的には、財務官が指示を出し、売買等実務は日銀が行う。筆者が銀行でディーラーであったときは、日銀からの電話でオーダー(例:「10本=1,000万ドル=売ってください」)を受けて、自らの銀行の名前で市場で売買(例:10本売り)していた。市場では日銀の名前が出てこないので、介入が入ったことはすぐにはわからない。日銀から、「注文主の名前は、一切口外してならない」との厳しい約束があるからだ。ただし現在は、電子ブローキングと聞いているので、状況は日々変化している。

しかし当局(政府・日銀)からは「介入についてはコメントしない」と発言しているので、介入の事実はすぐには確認できない。ただ市場では瞬時にわかる。一気に2-3円は変動し、場合によっては一日で5円以上動くからだ。例えば、今年4月末の介入では一週間で5.60円ドル円は下落、7月には日米で協調して介入したことで、3営業日で8.52円ドルは下落、円高になった。

(ロ)口先介入から始まる

介入の種類は多岐にわたる。
まず①口先介入である。「介入の用意があることを匂わせる」発言である。ここで面白いことは、災害の警戒警報と同じように実弾介入までに何段階かのレベルがあることだ。ただ、それは文章で明らかになっているものではなく、市場関係者の間で密かに語られている発言チェック例である(市場あるある、としてすでに表に出ているかもしれないが・・)。

次に②「レートチェック」である。日銀と銀行は必要に応じ情報交換しているが、話が煮詰まってくると「いま市場のレートはどうなっていますか?」との会話になることがある。介入の一歩手前の段階と受け取られる。今年1月、円が159円を超えたところで、一気にドルは下落したが、このレートチェックがあったと言われている(これを今年1回目の参加と位置付けている)。

次は、実弾での(円の)③「押し上げ介入」である。政府が容認しない相場になった場合に、好ましい水準まで誘導する介入である。今年4月に160円を超えたとき、そして7月には164円一歩手前になって行なわれた時だ(これらが2回目、3回目)。ほかに主なものとしては、④一定水準を守る時の(例:1ドル=100円を割り込まないようにドルを買い支える)「防衛介入」、⑤相場の大幅な乱高下を防ぐ「スムージング介入」がある。

(ハ)介入成功の要素「!(ビックリ)」「〃(継続)」「emoji 🤝 | 握手 | joypixels | 60 x 60(協調)」

「ビックリ」とは、市場が予想している時でなく、「災害は忘れた頃にやってくる」の如く、市場が「もうないだろう」と介入の意識が薄くなった時に行われることを指す。また「継続」とは、一回のみの介入でなく、一日に波状的に実施したり、何日も連続して行うことを指す。ちなみに4月の介入は、3日間実施し、5.60円円高に誘導した。ただ当時はそこで終わったことで、その後徐々に円安に動き、結局1か月経過してわずか1円の効果のみに終わった。

そして「協調」は、日本単独でなく、他の関係国(一番は、米国)と協調して介入することである。7月の介入は、米国(ベッセント財務長官)との協調であったことで、8.52円もの円高効果となった。ただ円買い/ユーロ売りで、米ドル売りでなかったので協調効果が減退し、その後約1か月で5円円安が進み、再び160円台に戻った。そして出てきたのが、9月初めの米財務長官の「胴元(英語でI am the House)」発言である。日銀に対する、実質的な、政策金利引き上げ圧力であり、円安けん制発言である。これは資金を使わず円高圧力となる協調介入に相当するものとみることができる。事実7.50円(160.39円→152.88円)の円高となった(これを4回目としている)。

(ニ)介入の事実の確認

ここで、財務省の実施状況の公表スケジュールをおさえておきたい。これらは財務省のHPに掲載されているが、月次ベース(1か月合計金額で毎月公表)と日次ベース(3か月分の介入実施日ごとの金額を3か月ごと公表)に分かれている。次回は、月次(令和8年8月27日~8年9月28日)は9月30日(水)午後7時に、日次(令和8年7月~8年9月)が、令和8年11月2-9日の間に発表になる。

ちなみに、今年の介入実績は、

令和8年4月    6兆2,787億円

令和8年5月    5兆4,561億円

令和8年7/8月  15兆3,993億円

(ホ)相場見通しに介入は重要なヒント

筆者は、1978年のカーター政権の「ドル防衛介入」(世界的なドル安で、ドル円も180円割れとなるドル安時に、米国政府によって行われたスイスフラン・ドイツマルク債券発行=実質ドル買いのドル防衛策で、一日で20円の乱高下をもたらした)、1985年の「プラザ合意」のドル引き下げ介入、2011年の東日本大震災発生時の「G7協調介入」、75.32円の「円史上最高値からドルを救うドル買い介入」など、多くの介入を経験してきた。そのすべてが、「為替の方向性を180度変えた」。これが介入の本来の力であろう。

介入は、筆者の領域「ポリティカル・エコノミー」の一つ。介入が入ったら、最低でも5円は変動する、と心得ている。今は150円台前半で止まっているが、筆者の見立てでは、最近の日米当局は本気で150円まで視野に置いていると感じている(ヘッジファンドの中には、140円説を唱えているところもある。<参考>ベッセント米財務長官はヘッジファンド出身。ジョージソロス氏とともに働いた経歴もある)。

今は「Buy on dips」でなく「 Sell on rally」の立場である。

この記事を書いた人

小池正一郎
小池正一郎KFSC所属 ファイナンシャルプランナー
専門分野

金融資産運用設計(国際金融、外国為替、デリバティブ、富裕層向け)

主な資格

CFP®・1級FP技能士