【寄稿】いつまで続く、首都圏マンション価格の上昇

 安倍元首相が提唱した「アベノミクス」が本格的に始まった2013年以降、首都圏をはじめ大都市圏のマンション価格は上昇の一途を辿っている。今後のマンション価格はどうなるのか、公表された諸々のデータを眺めながら、首都圏の今後について考えてみよう。

2013年以降、異常な上昇を続ける大都市部のマンション価格

 グラフ➀にあるように、2010年の平均価格を100とすると、2024年4月のマンション価格は全国ベースで200.2と倍増している。首都圏(1都3県)でみても、東京カンテイの中古マンション価格調査によれば、2013~2023年で価格は約72%増と大幅に上昇している。

 ➀のグラフを見れば分かるように、同じ住宅系の不動産価格でも戸建て住宅や住宅地に比べて、マンション価格の上昇は突出している。一方で国税庁の「民間給与実態統計調査」によれば、正社員給与所得者の平均給与(男女合計)は2014年4,891千円が2022年5,233千円と、7%しか伸びていないので、如何にマンション価格が高騰しているのかご理解頂けると思う。

●グラフ➀

出所:「不動産価格指数」(令和6年4月)国土交通省

首都圏ではいったい誰が、どんなマンションを、どの様な動機で買っているのか?

リクルートGの調査機関『suumoリサーチセンター』が今年3月に公表した「2023年首都圏新築マンション契約者動向」によれば、新築マンション購入者及び購入物件、資金計画については、以下の様な特徴がみられる。

●表-1

出所:「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査(㈱リクルート)」を基に筆者作成

 表1からは子供のいる一般世帯の購買力が低下しており、その需要減少をシングル世帯や高所得世帯(パワーカップル、資産家の高齢夫婦、等)が補っている様子が見て取れる。また価格高騰により、資金計画に合わせる為、面積を犠牲にしていることも分かる。更に低金利を利用して住宅ローンを目いっぱい借りて、手持ち資金を温存しようとする意図が見える。

 同調査では表1とは別に、マンションの購入動機についても調べているが、それによると「資産性を考慮する」割合が2013年の17.4%から、2023年には32.0%と大きく伸びており、動機順位も5位が2位に浮上している。これから想起されるのは、日経平均株価とマンション価格の上昇が似た様な軌跡を描いている点である。2013年初めに約11,000円だった日経平均株価は右肩上がりに上昇し、2023年末には約33,000円と3倍に伸びている。マンションがある種金融商品化していることを、連想させるデータである。

マンション購入者の実態や金融動向から、今後の首都圏マンション価格を予想する

(1)既に平均的なサラリーマンには、新築マンション価格は手の届かない水準になっている。更に今後は住宅ローン金利の上昇が見込まれ、借入額は抑えられる可能性が高い。そうなれば現在の価格水準のままでは、増々購入者が減ってしまうことになる。

(2)一部の富裕層や相続を意識する高齢資産家のマンション購入意欲は続くと思われるが、価格高騰により賃貸利回りは低下している。その為、都心部の好立地マンションでは表面利回りが3%未満の物件も出現しており、5%弱の配当利回りを示すJ-REIT(不動産投資信託)等に比べ、投資妙味が薄れてきている。

(3)海外投資家の日本の不動産に対する投資姿勢にも、変化がみられる。ニッセイ基礎研究所の2024年2月26日付不動産投資レポートでは、MSCIリアル・キャピタル・アナリティクス(米国の不動産市場調査会社)のデータとして、外国資本による日本の不動産の購入額は2023年に約1.4兆円で、前年同期比▲24.9%と大きく減少し、投資意欲が落ちていると報告している。 

 上記を考慮すると、都心部や大都市(横浜、川崎、さいたま、等)の好立地物件は引き続き高価格が維持される可能性はありそうだが、株式やJ-REIT(不動産投資信託)等金融市場の動向を注視する必要がある。金融市場が荒れる(大きく下落する)場合には、好立地・高額物件といえども連動して価格が下がることを覚悟すべきと思う。1990年前後の日本の資産バブル時代には、日経平均株価が最高値3万9,000円近辺を付けてその後大暴落したが、その際1~2年のタイムラグで不動産価格も株価に追随して大きく下げた歴史がある。

 また、都心部や都市部好立地以外のマンションについては実需(購入者本人の居住)が頼りであり、ローン金利が上昇傾向の昨今の状況を考えると、借入金額が抑えられ今の価格では購入できないことになる。そうなれば、自ずと価格は下げざるを得ないと判断している。

 以上、今後の首都圏のマンション動向について述べてきたが、それを踏まえると今は慌てて高騰した物件を購入するのではなく、経済動向等を睨みながらじっくり物件を探し、価格が合理的な水準にまで下がるのを待つべきタイミングと思われる。

この記事を書いた人

堀江雄二
堀江雄二KFSC代表理事
専門分野

ライフプランニング、金融資産運用設計(日本株、J-REIT等)、不動産運用(ビルの運営管理等)、個人の金融資産投資歴は40年以上を有する。

主な資格

CFP®・1級FP技能士、不動産コンサルティング技能登録、宅地建物取引士、ビル経営管理士、日本証券アナリスト協会検定会員補

略歴

(株)リクルート及び関連会社で、企業の人材採用・社内教育事業や不動産金融、ビルの運営管理業務等に従事後、独立、(有)ワイアンドケー代表