【ブログ】相続した不動産を「負」動産にしないために知っておきたいこと

所有者のわからない土地が、今や九州の面積よりも大きくなっていることはご存知でしょうか。実家は今後住む予定もないし、空き家のまま。相続人もそれぞれが自宅を所有しているなど、誰もが欲しがらないという非常にネガティブな理由で所有者変更の登記をしていない方や、そもそも遺産分割協議ができないなど、登記しない理由はさまざまでしょう。そんな中、2024年に登記義務化が始まります。それに先立ち,令和5年には相続土地国庫帰属法が施行されています。今回はこの法改正についてお話しします。

◆ そもそも不動産を所有している人は登記をしなきゃダメなの?

相続は誰にでも起こり得ることです。実家に畑がある,山がある、畑の傍に先祖の墓地がついている,代々の土地がある,など相続財産に不動産が含まれるケースは珍しくありません。これまでは,固定資産税もちゃんと支払っていることで、実質デメリットはなかったでしょうし、登記自体は任意でしたから、登記した方がいいというモチベーションにはつながらなかったかもしれません。不動産価格の高いものなら所有者を変更するために面倒な手続きを取っても、経済的メリットというモチベーションになったでしょうが,価値の低い不動産は放置されがちでした。その結果,所有者不明土地が九州よりも広くなってしまった現状ですが,来年には必ず登記が必要となることで,正当な理由がなく怠った場合、過料がかかることになります。

◆ 面倒な土地は国庫にもらってもらえればいい!という制度ではない

 相続登記義務化制度の前に、令和5年4月27日から施行された「相続土地国庫帰属制度」のポイントは、以下の4点です。

(1)相続等によって、土地の所有権又は共有持分を取得した者等は、法務大臣に対して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて、承認を申請することが可能。

(2)法務大臣は、承認の審査をするために必要と判断したときは、その職員に調査をさせることが可能。

(3)法務大臣は、承認申請された土地が、通常の管理や処分をするよりも多くの費用や労力がかかる土地として法令に規定されたものに当たらないと判断したときは、土地の所有権の国庫への帰属について承認。

(4)土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けた方が、一定の負担金を国に納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属。ただし「申請しても、必ず帰属できる制度ではない」こと。

門前払いとなるケースをいくつか例に挙げてみましょう。①建物がある土地②担保権や使用収益が設定されている土地③他人の利用が予定されている土地④特定有害物で土壌が汚染されている土地⑤境界が明らかでない土地⑥所有権の存否や帰属などに争いがある土地などです。手放したい土地ほど、このような厄介な問題点があるケースが多いでしょうから、制度を利用するのはハードルが高いといえます。申請する土地については,事前の測量などは不要ですが,目印などがない場合,土地の境界点に,テープ類などを設置して職員が現地調査等の際に確認できるようにしておく必要があります。また,申請をしてから結果が出るまで標準の処理期間は半年から一年ほど見込まれるようです。ただ,審査において不明な点があり,職員から問い合わせされたり,現地調査に同行してもらったりと,書類申請後も何かと時間がかかれば、審査完了までさらに長くかかることも予想できます。手数料も無料ではありませんが、申請が受理されなくても返金はされません。

◆ 相続した土地を手放したい!そんな時には

 相続財産に厄介な「負」動産が相続財産に入っている場合,相続を放棄するという選択肢もあるでしょう。ただ,相続の放棄は「相続を知った時から3ヶ月」という制限期間がありますし、いらない不動産だけ放棄すればいいわけではないので,他に相続したい財産がある場合,使えないのが,最大のデメリットです。土地を手放す制度は他にもあり,そのメリットデメリットについては法務省のホームページから以下の表(出所:法務省https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html#mokuji9)

で確認できます。いずれにせよ,来年2024年には土地の登記義務化が始まります。自分が不動産を所有していなくても,親や兄弟が売買しにくい不動産を所有していて、ひょっとして、自分が相続することも予想される場合にどの方法をとるのか,方向性を考えておくべきでしょう。

[参考]相続時に土地を手放す方法として考えられる各種手続きとの比較(出所・法務省)

この記事を書いた人

當舎緑
當舎緑KFSC理事
専門分野

ライフプランニング、リスクと保険、相続・遺言

主な資格

CFP®、社会保険労務士、行政書士、日本商工会議所メンタルヘルス検定Ⅱ種(管理監督者向け)等

略歴

神戸大学卒業 現在 當舎社会保険労務士行政書士法務事務所所長、昭和女子大学非常勤講師