子どものいない夫婦の遺言書は不要?

子どものいないA夫婦は、「うちは子どもがいないので、妻(夫)が全部相続するから遺言書は必要ない。」と言っています。はたして本当にそうでしょうか?

◆ 子どもがいない夫婦の法定相続人

子どもがいないA夫婦の法定相続人を示したのが図1です。ご覧の通り、子どもがいない夫婦でも、第二順位のご両親、第三順位の兄弟姉妹、場合によってはさらにその子どもの甥姪(代襲相続)が相続人になります。

図1:子のいないA夫婦の法定相続人イメージ(筆者作成)

 図1のA夫婦の例では、遺言書が無い場合は、残された妻は血縁関係の無い義兄(長男)との間で、遺産分割協議が必要になります。もし長男が先に死亡していた場合は、甥姪が代襲相続人となります。甥姪が未成年の場合は、法定代理人(弁護士等)が遺産分割協議に参加することになります。また、法定相続人の義兄や甥姪が日本にいない場合は、さらに面倒なことになります。

このように子どもがいない夫婦こそ、義兄弟との間でもめ事にならないよう、遺言書が重要になります。後述のように、第三順位の法定相続人には遺留分(注1)がありません。そのため、遺言書に「配偶者に全ての財産を相続させる」と書いておけば、義兄弟は遺産分割に口出しすることができません。

注1:遺留分とは、民法で遺産を受け取れる最小限の割合が認められている制度です

◆ 両親の遺留分に注意

 表1は子どものいない夫婦の法定相続人と法定相続分及び遺留分の割合です。この表でもわかりますように、両親には遺留分があることに注意しましょう。遺言書を書く場合に、遺留分を侵害しないような遺産配分にしておく必要があります。

また、遺言書を書いた後で両親が亡くなった場合は、法定相続人が第三順位に移ります。そのため遺言書の書き換えが必要になります。そのままの遺言書では、両親に相続させるはずであった相続財産について、法定相続人の間で遺産分割協議が必要になります。

表1:子どものいない夫婦の法定相続人と法定相続分・遺留分(筆者作成)

法定相続人AAの法定相続分と遺留分(内)Bの法定相続分と遺留分(内)法定相続人B
配偶者2/3(1/3)1/3(1/6)第二順位直系尊属(父母・祖父母)※父母・祖父母共死亡の場合、第三順位へ
配偶者3/4(1/2)1/4(無し)第三順位兄弟姉妹※甥姪まで代襲相続有

◆ まとめ

 子どものいないA夫婦は、たった一枚の遺言書を書くだけで、残された配偶者が余計な苦労をしなくても済むことがわかったようです。子どものいない夫婦こそ、残される配偶者のために遺言書を書いておきましょう。

この記事を書いた人

植田周司