【ブログ】資産運用における「リスク」を考える

「リスク」という言葉はよく使われますが、結構奥深いものがあります。

一般には、保険におけるリスク、企業のリスク管理等含めて、「危険」「損害を被る」といった意味合いで使われることが多いと思います。ところが、資産運用の世界では、リスクは収益のブレを示すものとして使われることも多く、この場合は、収益が大きく上振れすることも「リスクが大きい」と言うことになります。

我々は「リスク」をどう捕らえるべきなのか?「リスク」の捕らえ方によって資産運用における考察のポイントも変わることになりそうです。今回は「リスク」について少し掘り下げて考えてみたいと思います。

「リスク=収益のブレ」という考え方

金融の世界で「リスク」を収益のブレという意味で使われることが多いのは、現在の金融理論に大きな影響を与えている「モダンポートフォリオ理論」でそのような定義を基にした論理展開が為されているからでしょう。

では何故そのような定義が為されたかと言うと、その発生分布が「正規分布」に従うと想定される前提で、「リターン=(平均)収益率」、「リスク=標準偏差値」と定義することにより、「リスク」と「リターン」の関係を定量的に深掘りすることが可能になって理論を組み立てやすくなるという点が大きいと思われます。

正規分布の詳細な説明はここでは省略させて頂きますが、背景として重要な点は、投資の年当たりリターン、テストの点数、振ったさいころの目等、世の中で発生する事象の多くについて、その数値(リターンの値、点数等)とその頻度の発生分布が正規分布で近似できるということです注1(注1: 例えば皆様が学生時代に受けたテストの成績も「偏差値」で表されることが多かったと思います。これも、テスト結果の分布が正規分布になるという前提で表された数値です)。

図1はある株式(ファンド)に投資した場合の毎年のリターン(収益率)=横軸とその発生頻度=縦軸の分布を表したものですが、正規分布前提と言うことで、横軸には標準偏差値(σで表現)も併記しています。

正規分布に従う場合、その発生頻度は収益率が平均値の場合が最も高く、平均値から外れるほど低くなって、各リターン値の発生頻度を線でつなぐと釣鐘上のグラフとなります。ここでもし、すべての発生事象が平均値の近傍に集約された場合にはこの釣鐘は平均値での縦線にくっつくような縦長の釣鐘になり、逆に平均値から大きくばらつく場合には横長の釣鐘となります。

そして、このばらつきの大きさを示すのが標準偏差値(σ)と言うことになります。正規分布の特徴は、グラフが縦長になっても横長になっても、事象の発生分布に法則があって、平均値を中心に±1σ、±2σ、±3σの範囲に、それぞれ68.26%、95.44%、99.74%の事象が収まることになるのです。

例えば図1では、このファンドの年当たりリターンの平均値は5%、1標準偏差値は20%と仮定しているのですが、この法則を利用すると、将来のリターンを確率的に予測できることになります。

貴方がこのファンドへの投資を検討される場合、今後のリターンがどうなるかが気になると思います。

が、現状の政治・経済・金融等の影響をとりあえず考えないと、例えば今後1年のリターンについて次の推定が成立することになるのです(図1を参照ください;これは「正規分布」)の特質に基づく推定です)。

  • 最も可能性の高いリターン値は5%
  • リターンがー15%~25%の範囲に収まる可能性が68.26%
  • リターンがー35%~45%の範囲に収まる可能性が95.44%
  • リターンがー55%~65%の範囲に収まる可能性が99.74%

→ ④から、価額が55%超下落する可能性は0.13%(片側)で、これが最大損失の目安となる

投資信託の比較サイト等に行くと、主要なファンドの過去のリターンの平均値や標準偏差値を調べることができますので、皆様も次の1年のリターンを確率的に予測することができます。ただし注意点もあります。次の点には留意が必要です。

  • 対象ファンドのリターンも標準偏差値も選択する期間によって変動するし、そのファンドの将来が過去の延長線上にあるとは限らない

→特にリターンは時間の経過に伴って大きく変動しやすいという特徴があります

  • 対象ファンドの今後のリターンが本当に正規分布に従って発生するのか?一般に、定常時にはほぼ正規分布に従うと考えられていても、大暴騰時や大暴落時は「買いが買いを呼ぶ」「売りが売りを呼ぶ」等が起こりやすくなり、正規分布から乖離する可能性が高まる(図1で言うとグラフの両端の発生頻度はもっと高くなる=ファットテイル)という見方が有力です

つまり、「正規分布」に基づく予測はあまり厳密に考えずに目安イメージで捕らえた方が良い、ということになるのですが、それでも投資の参考にはなると思います。

「リスク=危険、損害を被る可能性」という考え方

こちらの方が、多くの皆様方のイメージに合致するように思われます。金融を勉強された方の中には、リスクを「危険」等と解釈するのは誤り、とまで言っている方もおられますが、これは極論で(ちょっと独りよがり)、せめて、「私のここでの説明の中では、『リスク』は××という意味で使います」と断って使った方が良いと思います。それはさておき、リスクを危険、損害を被る可能性と捕らえる方は、資産運用においてとにかく損はしたくない、と考えておられ、収益が大きく上振れするのは大歓迎でリスクではない、と考えられているのだと思います。それでは、資産運用でできるだけ損失を避けるにはどうしたらよいでしょうか?図2を見てください。

代表的な金融商品である株式、債券、預貯金についてリスクとリターンの関係を比較したものです(あくまでイメージですが)。実は横軸の「リスク」はすでにご説明した標準偏差値で表わされているのですが、ここでは単純に、右上にある商品ほど、平均的には利益を生む可能性が高いが、下手をすると損を出すリスクも高くなる、と捕らえてください。

そうすると、できるだけ損失を避けるためには薄利だけれど預貯金で運用するのが無難、と考えられる方も多いと思われます。もちろん、これが誤りと言うつもりはありませんが、1つ注意点があります。このグラフだとリターンは預貯金を含めてすべてプラスと見えますが、実は「通貨ベース」(日本では円ベース)で表されていることに注意する必要があります。

現在の日本では当面の物価上昇率は3%程度と考えられますが、身近な食料品やエネルギー価格については、中東情勢の影響等もあって更なる上昇も見込まれそうな状況です。預貯金や短期債券の利回りではなかなか生活費の上昇に打ち勝てず、着実に保有資産が目減りする懸念もあるわけです。だとすると、生活費の上昇に負けない運用をするにはどうしたらよいかが問われることになります。

もちろん、現在の収入が多かったり、シニア世代でも預貯金や年金等で十分に賄えるという方は、株式運用等で金融資産を大きく減らすのを回避するため預貯金に比重を置いて多少の目減りには目をつむる、というのも立派な考え方ではあります。ここは、ライフプランニングの観点で大局的に判断する必要がありそうです。

そこで次に、株式や債券投資について、できるだけ損失を避けるという前提で考察してみたいと思います。まず株式投資です。図3を見てください。個別株は千差万別なので、日経平均、TOPIX、S&P500、MSCI ACWIの4つの指数(S&P500は米国株の代表的指数の1つ、MSCI ACWIは世界の主要株式に分散投資する代表的指数の1つです。ここでは、日本から投資する前提で、日本円ベースで表しています)について、直近20年あまりの推移を示したものです。

これから分かることは、いずれの指数も様々な危機に遭遇して暴落することもありましたが、長期的視点では、(少なくともこれまでは)上昇を続けている、ということです注2。(注2:参考データですが、著名なフランスの経済学者であるトマ・ピケティ氏の著書「21世紀の資本」によれば、世界の約20カ国について、過去200年以上のデータを15年掛けて分析した結果、国や時代によって若干のバラツキはあるものの、株式投資の収益率は平均で年に4~5%程度と試算されています。) 

なお、図3にある2024年8月の暴落(詳細は図4参照)は、当時は「日経平均株価が歴代最大の下落幅を記録」等と報じられたのですが、図3を見ると「どこにそんな大きな下落が?」と感じられると思います。実は図3のグラフは毎月の終値を結んで株価推移を示したもので、2024年8月の暴落は月末までにはほぼ回復したので、図3にはほとんど反映されていない訳なのです。

なお、図3で直近の下落(「中東危機・『SaaSの死』」と表示)についてはまだ決着が見えていないので、今後の推移は不透明なところがあります。(「SaaSの死」というのは、AI技術の進展により、ネットを使ってITサービスを提供してきた企業が淘汰されるというものですが、影響範囲はまだ不透明です。なお、これとは別に、一部の企業ではAI投資が過度に膨らみ回収できなくなるのではと言う懸念も生じています。)

以上から言えることは(直近の状況は若干不透明ですが)長期投資を前提にする限り、株式投資は(標準偏差で表される)変動リスクはあっても、大きな損失を被るリスクは小さいと言えるのではないでしょうか?(尤も、個別株投資は対象企業の業績に強くリンクするため、この限りではありません。)図3を見る限り、長期運用が可能な余裕資金はできるだけ早めに投資に回すのが得策と考えられます(一時的な暴落は無視して平然と構えていれば良い、ということです;更に言えば、余裕資金があれば暴落時に追加購入することで投資効率を上げられそうです)。

ただ一方で、現在の世界の政治状況は帝国主義の復活の一 面が窺えて、自由貿易も阻害されつつあり、これが世界全体として企業収益を圧迫して経済成長を下押しする、という懸念も出てきています。今後の動向を確実に予言するのは難しく投資判断も難しいのですが、株価がコロナショック以降急速に上がりすぎて適正価値を超えたのではという懸念もあって、合わせて考えると、余裕資金と言えども1度には投資につぎ込まず、様子を見ながら何回かに分けて投資するのもアリかと考えられます(暴落時には追加投資するという考え方)。勿論、投資は皆様方の判断・自己責任でお願いします。

次に債券投資について少し考えてみます。これまでにだいぶ紙面を使ったので、簡潔にポイントのみ述べていきたいと思います。債券には多くの分類基準がありますが、特殊な債券を除いて重要なのは、固定金利の債券(発行時に期間終了までの金利が決まっているもの)か変動金利の債券(世の中の金利変動に応じて債券金利も変動していく)かという観点と、国内債券か海外債券かという観点の2つだと考えます。

前者では大半の債券が固定金利なのですが、身近な債券では個人向け国債変動10年ものが変動金利となります。1年間は解約不可ですが、それ以上持てばいつでも解約できる(ただし直近1年分の金利が解約手数料となります)ので、10年は長そうですが、リーズナブルかも知れません。4月15日発行のもので年当たりの金利が税込1.40%ですが、半年毎に金利が見直されていきます。

日本では当面、金利は上昇局面と言われていますので、「ほくほく」となるかも知れません。一般の預貯金に比べると、1年経ったら自由に解約できる割には金利も高そうです。ただ、先にも述べたように、現状では物価(特に食料品価格)の上昇には届かないようです。これをどう見るかは皆様方の判断です。国内債券では個人向け国債10年変動以外は大半が固定金利となりますが、社債の中には結構金利が高いものもあるようです。人気の高いものはすぐに売りきれるようですので、興味のある方はマメにネットでチェックされるか証券会社等に相談されると良いかも知れません。

なお、社債には発行体のデフォルト(破綻)リスクがありますので、金利が高ければ良いというわけではない、という点にはご注意ください。なお、固定金利の債券で重要な特徴として、「金利上昇局面では債券価値が下がり、金利下落局面では債券価値が上がる」ということがあります。ここでは理由の説明は省略しますので、気になるという方は少し考えてみてください。

次に海外債券です。一般に海外債券は国内債券より金利が高いので、物価上昇を上回る利回りが得られるものもありそうです。デフォルトリスクに注意する必要がある点は国内債券と同様ですが、もう一つ重要なチェックポイントは為替リスクです。高金利以上に投資対象国 の通貨価値が下落(円が上昇)してしまえば、実質リターンはマイナスになってしまいます。特に新興国債券には注意が必要ですね。

現状、妙味があると言われているのが米国債です。まだまだ金利高の状況が続いていて、今後の金利低下が見込まれるからです。デフォルトリスクの低い企業の社債でもかなり金利が高いものもあるようです。為替リスクについては図5にイメージを示しますので参考にしてください。

今後の為替の動向は予想が難しいですが、図5で判断する限り結構ドル安(=円高)になっても円ベースでの価値が大きく目減りする懸念は少なそうです。更に言えば、もし満期時にドル安(=円高)になっていたら、すぐ円転せずにドルのまま保有(必要ならドルで更に投資)する考え方もあります。

長期的視点では、すべてを円資産とせずにドル資産も含めて通貨分散するのは十分妥当な考え方と思われます。

最後に

資産運用ではリターン(収益率)と共に「リスク」についても考察することが必要です。「リスク」にも色々な視点がありますが、今回は「収益のブレ」と「危険・損害を被る可能性」という2つの視点で考察してみました。

ほかの視点もあると思いますし、今回取りあげた2つの視点での考察も筆者の個人的見解が色濃く出ています。今回の私の説明も含めて他者の説明を鵜呑みにせず参考程度にして、皆様がご自身の頭で最近の金融状況等も踏まえて考察されることが重要です

くれぐれも、投資判断は自己責任でお願いします。皆様のご健闘とご健勝を心よりお祈りいたします。

この記事を書いた人

鈴木康文
鈴木康文KFSC所属 ファイナンシャルプランナー
専門分野

金融資産運用設計、ライフ・リタイアメントプランニング

主な資格

CFP®・1級FP技能士