資産運用の王道と言われる「4資産分散」の是非を考える 

資産運用で1番重要なことは何か?「1番」というと難しいですが、「分散」を挙げる方も多いのではないでしょうか?分散にも「資産分散」「地域分散」「時間分散」など色々ありますが、今回は地域分散も含めた資産分散を取り上げます。分散はリスク(変動の大きさとか破綻する危険等)を低減する効果があると言うことで、投資者の心得としてしばしば語られます。「分散」は何故必要なのか、すればするほど良いのか? まず「分散」について考え、その上で現状を踏まえた、伝統的な「4資産分散」の是非についても考えてみたいと思います。 

「分散」の意義 

 資産分散で1番有名な格言は恐らく「すべての卵を1つの籠に盛るな」ではないでしょうか?卵を1つの籠にだけ盛ると、その籠を落とした場合には、すべての卵が割れてしまうかもしれないが、複数の籠に分けて卵を盛っておけば、そのうちの1つの籠を落としそこに盛られた卵が割れてしまったとしても、他の籠の卵は影響を受けずにすむということです。転じて、特定の資産だけに投資をするのではなく、複数の資産に投資してリスクを分散させた方がよいという教えです。 

これは破綻する危険を分散によって薄める効果を述べたものですが、更に重要な分散効果は分散によって変動の大きさを抑えられる、というものです。図1をご覧ください。株式A、株式B,及びこれらを50%ずつ購入した場合の6年間のリターン(年間利益率)の推移を示したものです(あくまで説明用で実際の株式ではありません)。株式Aの場合1年目はリターンが0%、2年目は+40%、・・・と読みます。ここから分ることは、2つの株式を組合せる(図1では「A、B各50%購入」で示される)ことにより、リターンは単純に平均化するだけですが、変動の大きさを抑えることができるということです(ここでは分りやすいようにA、Bのリターンの変動の方向を逆にして分散効果を強調しています)。 

 

 それでは、変動の大きさを抑えると何が嬉しいのでしょうか?図2をご覧ください。株式1は変動が大きく、株式2は変動が小さいが、6年間の平均リターンは同じという想定です。平均リターンは共に15%なのですが、累積リターンは異なるというのがポイントです。つまり、図に示すように最初に1万円投資した場合、6年後には、株式1は17,640円になるのに対して株式2は22,869円になっています。疑われる方は電卓をたたいて計算してみてください。平均リターンが同じでも変動が大きいと累積リターンは低くなってしまうのです。 

 以上をまとめると、資産分散により破綻リスクを抑えつつ全体の変動も抑えて、結果として累積リターンの向上に寄与する、ということになります。それでは、分散はすればするほど良いのでしょうか?図1で分るように、分散により変動を抑えることはできるが、リターンは単位期間(ここでは1年)では平均化されるだけで良くなるわけではありません。つまり、元々リターンの低い金融商品を組合せることは、変動を抑える効果はあっても、単位期間のリターン向上には寄与しないということです。理想は、リターンが高いが価格変動の方向が異なる金融商品を組合せることで、分散の数を増やすことだけが良いのではありません。なお、個別株式の分散で考えると、異なる業種・業態の銘柄を選択することは重要ですが、20銘柄を超えて分散してもリスク低減効果はほとんど変わらないことが立証されています。 

4資産分散の是非

 4資産分散とは、通常、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の4つの資産に分散して投資することを指します。有名なのは我々の年金(所謂公的年金)を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産分散で、これらの4資産にほぼ均等に分散運用しています(図3参照)。そして、そのGPIFの2022年度と2023年度(第3四半期まで)の資産別運用実績を示したのが図4となります。ここまで、全体としては好調さを加速させているものの、国内債券だけは連続して利益率(リターン)がマイナスになっているのが分かります(直近で外国商品が好調なのは円安も寄与していると考えられます)。GPIFの場合、長期投資を前提にしているため、短期的に資産構成比をいじることはしない方針と考えられますが、しばらくは、少なくとも国内債券の運用は厳しい状況が続くと思われます。なぜなら、国内債券の金利は最低水準が続いていて、これから上昇に転じるかどうか、という状況にあるからです。上昇に転じれば、既存の債券価格は下落しますし(金利が上がれば、これまでの低金利の債券は更に魅力が低下するため)、上昇しなくとも現在の低金利が続けば、株式等に比べて魅力の見劣りは否めません。 

 つまり、当面は、国内債券を運用資産の一部に組み込むのは、変動を抑える効果はあっても、全体のリターンにマイナスの影響を与える可能性が高いと考えられます。現在でも4資産分散を推奨される方はおられますが、当面は国内債券を運用資産に組入れないことを個人的には推奨します。勿論、現状の金利水準を前提としたもので、今後金利水準が回復して債券投資の魅力が戻ったら、分散対象に加えるのは良いと思います。それまでは、金利上昇により既存の債券価格は下落していくのです。今朝(3/19)の日経新聞のトップタイトルは「日銀、大規模緩和解除へ」ですが、米国並みに金利が上昇するのは難しい状況が続きそうです。なお、ここで前提とする債券は固定金利(発行時に満期までの金利が決定する)の債券で、例えば個人向け国債変動金利型10年満期などは、固定金利ではないので金利上昇時の価格下落が起きないため、固定金利債券の代わりに(というより待機資金の受け皿として)組入れる意義はあると考えます。 

 したがって、固定金利の国内債券を投資資産に組入れるなら、当面は、高金利だが破綻リスクの低い短期社債に限定するか、変動金利債券や現在割安になっているREIT等に切替えた方が良いと考えています。なお最近またビットコインが急騰して話題になっていますが、仮想通貨等、投機性の高い商品には注意が必要です。ビットコインは米国でETFの組成が承認されたり、近く半減期を迎える(詳細は省略しますが、新規の発行量が半減するため希少価値が高まる)等で注目が集まっており、買い推奨される方もおられます。しかし、私は、このコラムでも何度か取り上げて解説したように、短期的な投機と割り切ってやられる方は別として、安定的な資産形成の対象としては避けるべきと考えています。ビットコインは裏付けとなる資産価値が全くなく、需給だけで価格が変動する投機的なものであることを心得ておかなければなりません。 

以上より、分散は重要ですが対象の選択には留意が必要で、分散すればするほど良い、というものではないのです。 

最後に

 資産運用を考えるとき、特定の金融商品や株式銘柄だけに集中投資すると、不測の事態等で資産の多くを失うというリスクがあります。また、長期投資の場合は、複数の商品に分散しておくことにより、資産全体の額の変動を抑えて安定的な運用につながることも検証されています。資産運用に時間を割く暇も無く、運用商品への知識もない、という方は、今はやりの全世界株式に幅広く分散投資している投資信託等を購入して「ほったらかし」にしておく、又は、より安定的なのは毎月積立を続ける、というのも良いと思います(なお、投資信託はそれ自体が分散商品ですから、投資信託を組合せるときはそれぞれの中身を確認しないと本当の分散が進むとは限りません)。しかしある意味、「分散」は平均化であり、リターンの最大化ではありません。 

 ある程度の分散は必要ですが、企業でも「選択と集中」が求められているように、時間に余裕があって投資に関心のある方は、より良いと思われる商品や株式銘柄をいくつか選択して重点的に投資するのも良いのではないでしょうか。シニア世代の方には、「自分で考える投資」が新たな調査・分析や同好者とのコミュニケーションを通して、意欲の醸成や認知機能の低下防止につながる、との論もあります。「選択」が正しくできる保障はありませんので、幅広い分散と多少の「選択と集中」を組合せる、所謂「コア・サテライト戦略」も有力です。 

 以上は筆者の個人的見解です。今回の私の説明も含めて他者の説明を鵜呑みにせず参考程度にして、自分で考えてご自身の投資方針やその内容を決めていただくことが重要です。くれぐれも、投資判断は自己責任でお願いします。皆様のご健闘とご健勝を心よりお祈りいたします。

この記事を書いた人

鈴木康文
鈴木康文KFSC理事 ファイナンシャルプランナー
専門分野

金融資産運用設計、ライフ・リタイアメントプランニング

主な資格

CFP®・1級FP技能士