【ブログ】「自分自身の年金」を考える
2024年は5年に1度行われる年金財政検証の年でした。この検証は社会保障審議会で行われ、その検証結果を基に政府が改正案を作成し国会に提出し国会で議論されます。
今回は年金を取り巻く環境と改正の方向性について見ていきましょう。
年金を取り巻く環境
(1)人口の変化
日本の人口ピラミッドの図(図―1参照)は、すでにテレビや新聞で何度も目にしたことがあるのではないでしょうか。日本では少子高齢化の流れが止まることなく進んでおり、合計特殊出生率(15歳~49歳の女性が生涯に産む子どもの人数。2.06~2.07を切ると人口減少になると言われている。)も8年連続減少し、令和5年には過去最低の「1.20」となっています。また、未婚の割合も増加(図―2)しており、このことがますます少子化を加速(※)させ、将来的には「単身世帯」が増えると予則されています。
(※)ニッセイ研究所
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75505?pno=3&site=nli
図―1 日本の人口ピラミッドの変化
図―2 未婚割合の推移
(2)働き方の変化
働き方についても大きく変化してきており、1990年代と比べると非正規で働く方が増加しており働く者の35%超が非正規雇用労働者(図―3参照)です。そして、その非正規の多くは女性(図―4参照)となっています。
図―3 正規・非正規雇用労働者の推移
図―4 雇用形態別就労者数の推移
図―1~4の出典
厚生労働省:「年金制度を取り巻く社会経済状況の変化」
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001078052.pdf
年金制度の概要
日本の公的年金についてみてみましょう。
日本の公的年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満全員が加入する「国民年金」と働く者が加入する「厚生年金」の2階建てになっています(図ー5参照)。そして、ライフコースごとに入る年金制度が異なります(図ー6参照)。
図―5 年金制度の仕組み
図―6 公的年金制度とライフコース
図-5~6の出典
出典:厚生労働省 「年金制度基礎資料集」
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001276571.pdf
保険料と年金額(ここでは老齢給付を考えます)の概要は以下の通りです。
保険料 | 年金額(老齢給付) | |
国民年金 (基礎年金) | 月額: 1万7000円×保険料改定額 | 78万900円×改定率 ×保険料納付済等期間/480ヶ月 |
厚生年金 | 月額: 標準報酬月額(65万円max.)× 183.00/1000 賞与: 標準賞与額(150万円max.)× 183.00/1000 | (原則) 平均標準報酬額×5.481/1000 ×被保険者期間の月数 |
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、加入した期間に比例して年金額が増えていきます。このため、基礎年金では40年(480ヶ月)納付すること、厚生年金では長く働くことが受け取る年金額を増やすための大事な要素になっています。
「公的年金」の大きなメリットは「終身」で受け取ることができる、また年金額が物価や賃金の変動に連動しているのでインフレに強い、という点があげられます。 第1項で見てきたように日本では将来「単身世帯」が増えると予測されています。男女を問わず、また正規・非正規雇用労働者を問わず、人生100年時代の「自分の公的年金」をしっかり考える必要があります。
2024年の年金財政検証から見えてきた課題
日本の公的年金制度には、少子高齢化に伴う公的年金加入者の減少や平均寿命の延びなど、社会の人口・経済全体の状況を考慮して、給付と負担のバランスを自動的に調整する仕組みがあります。これらのバランスがとれているかどうかを確認するため、少なくとも5年ごとに、最新の人口や経済の状況を反映した、長期にわたる財政収支の見通しを検証することになっています。これを「財政検証」と言います。
この財政検証から見えてきた課題をいくつか取り上げることとします。
改革の方向性 | 報告書案 | 補足 |
短時間労働者への被用者保険の適用拡大 | 賃金・企業規模条件を撤廃(年収「106万円」の壁の撤廃) | 現在の基準(特定事業所:51人以上) ・20H/週以上の労働 ・8万8000円/月以上(年収106万円以上) |
個人事業所の非適用業種の解消 | 5人以上の個人事業所について非適用業種を解消 | 非適用業種:農林水産業、宿泊業、飲食サービス業など |
「第3号被保険者」制度の見直し | パート労働者等の厚生年金加入を進め、第3号被保険者の対象者を減らす | 廃止の案もあったが5年後に先送り。今後議論を深める。 |
在職老齢年金制度の見直し | 高齢期の活躍を後押しする方向性で見直し | 支給停止の基準額撤廃の案もあったが、当面は基準額の引き上げで対応 |
標準報酬月額上限の見直し | 現行の標準報酬月額上限額の改定ルールを見直し新たな等級を追加 | 現在の標準報酬月額の上限は65万円 |
子のない配偶者の遺族厚生年金の見直し | 男女とも有期給付とし、年齢要件に関する男女差を解消する | ○現在、子のない30歳未満の「妻」には5年有期の「遺族厚生年金」が支給される ○30歳以上の「妻」は無期給付 「夫」は妻の死亡の当時55歳未満の場合受給権なし |
年金制度における子にかかる加算 | 給付の拡充 | (現行) 第1子と第2子:22万4700円×改定率 第3子以上:7万4900円×改定率 |
出典:厚生労働省 「社会保障審議会年金部会における議論の整理」
https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/001364986.pdf
自分自身の年金を考える
今回の財政検証では、年金支給における男女格差の解消や子どもへの給付の充実などが課題として取り上げられています。また、1項の年金を取り巻く環境で触れたように、日本では未婚が増加し、将来単身世帯が増えると予測されています。
このような流れの中で、男女を問わず、また働き方を問わず、人生100年時代を自分らしく生きるためには、「公的年金」を軸に自身のライフやキャリアを考えることが必要となります。この機会に、皆さんもご自身の公的年金を少しでも増やすことを考えてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
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専門分野
ライフプラン
主な資格
AFP、国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
略歴
電機メーカーに技術者として入社、通信機器類のハードウェア設計部門で品質管理や電子部品の設計に従事。その後、労働組合専従役員として活動し、地方公共団体及び国の審議会・協議会・分科会などの委員も務める。労働系シンクタンクで女性の労働運動の研究などにも関わる。2018年に会社に戻り、社員のキャリア研修の企画などに従事。
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