【ブログ】マンション所有者は必見!相続税評価額が上がる?
2024年1月から居住用マンションの相続税評価額の計算方法が改定されました。これまで、マンションの階数や築年数が考慮されずに相続税評価額が計算されていたため、これを逆手に取った節税スキームが横行し、それを見かねた国税庁が動き出し今回の評価額の計算方法の改定につながったわけです。この記事でも述べていますが、一戸建てに比べるとマンションの相続税評価額は著しく低くなっていましたので、今回の改定よって大きく是正がなされました。あなたがお持ちのマンション相続税評価額はいかがでしょうか。気になる方は、この記事の最後にシミュレーションができるシートをつけておきましたので、ぜひお試しになってみてください。筆者の自宅マンションは、相続税評価額が改定前の1.18倍になりました。
「投資賃貸不動産の評価手法を使った節税」裁判が計算方法改定の発端
今回の相続税評価額の計算方法の改定は、下記の裁判が発端となったと言われています。裁判の経緯は以下の通りです(出典 裁判所HP2024.10.2現在)。
被相続人Yさん(当時90歳)が平成21年1月に信託銀行から6億3,000万円を借り入れて、収益物件として東京都杉並区のマンションを8億3,700万円で購入しました。(以下マンションAとします)。また、Yさんは同年の12月(当時91歳)にも、同じ信託銀行から3億7,800万円を借り入れて、同じく収益物件として神奈川県川崎市のマンションを5億5,000万円で購入しました。(以下マンションBといいます)。このように、Yさんは約10億円の借入金を主たる原資として約14億円の投資物件を購入したのです。その後Yさんは、平成24年6月に94歳で亡くなりました(この時点で相続が開始されました)。
Yさんの法定相続人は、配偶者、実子3名および養子1名の計5名で、相続税の基礎控除額は1億円になります。(当時の相続税基礎控除額:5,000万円+1,000万円×5名)。
相続税の申告時には、マンションの評価減のスキームがその効果を発揮し、2物件の相続税評価額は、マンションAは2億円、マンションBは1億3,300万円でした。さらに、10億円の借入金(Yさんの死亡時の借入金残高は9億6,300万円)は、債務控除として相続財産から差し引くことが出来ますので、この2物件に関して言えば、評価額合計約3億3,300万円に対して債務が9億6,300万円ということになり、実に約6億3,000万円の”債務超過”という状態となりました。この6億3,000万円は、この2物件以外のYさんの相続財産(預貯金や不動産、有価証券など)とも相殺できます。その結果、Yさんの相続人の相続税の課税価格はわずか2,800万円にとどまり、上の基礎控除額1億円を下回るため、相続税は0円という内容の申告でした。
出所:筆者作成
路線価(相続税路線価)と実売価格の大きな乖離!
相続税評価額の基準となるマンションの路線価(相続税路線価)は、物件の実勢価格と大きな乖離があり、特にタワーマンションなどの高層階物件はその差がとても大きなものでした。平成30年のサンプル調査によると、マンションの相続税評価額と市場価格の乖離率は平均2.34倍で、一戸建ての相続税評価額と市場価格の乖離率の平均1.66倍を大きく上回っていました。例えば、市場価格が2億3,400万円のマンションの場合、相続税評価額は1億円となります。調査によると、なんと半数以上のマンションの相続税評価額が市場価格の半額以下の評価だったそうです。相続税評価額1億円の一戸建てを持っている方と同額のマンションを持っている方を比較すると、課税される金額は同じであっても市場価格は一戸建てだと1億6,600万円、マンションだと2億3,400万円と大きく乖離しているのが現状でした。
ここで出てきたのが、タワマン節税のスキームです。3億円の預金を持っているより2億円程度をマンションに投資する方が1億数千万程度財産を減らせることになり、乖離率の大きさを利用して節税しようとする納税者が散見されたことが問題視されていました。国税庁はここに目をつけ、相続税評価額の計算方法の改定に動いたわけです。
乖離する理由は大きく3つ
乖離する理由は、大きく3つあります。1点目は、建物の相続税評価額は再建築価格をベースに算定された固定資産税評価額を用いています。一方、市場価格は再建築価格に加えて建物の総階数、所在階も考慮されています。また、評価額への築年数の反映が不十分な場合もあり、高層マンションなどの高層階の実勢価格との差が大きく出ます。2点目は、敷地利用権は、持分割合で按分した面積に平米単価を乗じて評価されますが、この持分割合は戸数の多い高層マンションほど細分化されて立地条件の良い場所でも、評価額が市場価格に比べて低くなる傾向があることです。そして3点目は、建物については、固定資産税評価額と市場価格を算定する際に考慮するものが異なることによって乖離が起きていて、敷地利用権については高層マンションになるほど持分割合が細分化されているため市場価格との乖離が起こっていることも理由とされます。
改定計算方法はこうなった
今回、国税庁はマンションの築年数、総階数、所在階、敷地の持分を考慮した「評価乖離率」を計算し、その評価乖離率の範囲に応じて、相続税の評価額を計算する仕組みを作り出しました。評価乖離率の結果が1.0未満の場合は、これまでの相続税評価額より低い評価になります。また評価乖離率が1.0以上1.67以下の場合は、これまでの相続税評価額と同じに、さらに評価乖離率が1.67を超えるマンションは、評価額が大幅に高くなることになりました。ただ結果に係数0.6を掛けるのは、そのままでは一戸建ての評価額との比較で評価が高くなりすぎることを是正する措置のためです。
今回の改定された計算に必要な数値は、全て全部事項証明書(登記簿謄本)に記載されています。あと、現行の固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税(&都市計画税)決定通知書に記載がされていますので、この2つの書類があれば計算が可能です。
出所:国税庁ホームページ
出所:筆者所有全部事項証明書
60階建てのタワマンでシミュレーションしてみた
わかりやすい例でご説明しましょう。
下の表は、同じ敷地に建つ60階建てのタワーマンションで、パターンAからパターンEまでは築年数や所在階数は違いますが、現行の相続税評価額はすべて6,000万円です。これを改定された計算法で相続税評価額を計算すると、驚くべき結果になります。
築年数が新しく(築5年)所在階が最上階のパターンAは、新相続税評価額が1億3,363万円と、現行の相続税評価額の約2.2倍になリました。逆に築年数の古い(築56年)の所在階が2階のパターンEは、新相続税評価額が現行を下回る計算になりました。
今回の改定によって、これまで野放しになっていた、タワマン節税スキームが使えなくなりました。ただ、タワーマンションだけでなく、一般的な低中層マンションでも相続税評価額が高く評価されてしまう場合がありますので注意が必要です。次の章では具体的な数値を入力することによって、評価乖離率や改定後の相続税評価額をシミュレーションできるシートを作成しましたので、よろしければお使いください。
出所:筆者作成
あなたのマンションでシミュレーション
出所:筆者作成
この記事を書いた人
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専門分野
ライフプラン、リタイアメントプランニング、金融資産運用、税金、相続、終活全般
主な資格
AFP、2級FP技能士、終活アドバイザー、円満相続遺言支援士、認定ファシリティマネジャー(CFMJ)
略歴
大学卒業後、総合オフィス家具メーカーに入社後、法人営業、海外(ドイツ)駐在、国際業務、ECサイト運営、営業管理/企画、経営企画などを経験。現在は再雇用社員として勤務の傍ら、FP・終活アドバイザー・円満相続遺言支援士として活動中。
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