【ブログ】“国が「相続した不要な土地」を引き取る制度”が始まります
家財(動産)は捨てる(放棄する)ことが可能です。しかし、今まで不動産は放棄することはできませんでした。このため、特に「相続した不要な土地」が放置されることが多く、マスコミで「所有者不明土地が九州全域の面積より広い」と取り上げられたこともありました。
いよいよ、4月からこの解決策がスタートします。
◆ 「相続土地国庫帰属法」制定までの経緯
国土交通省「平成28年度地籍調査における土地所有者等に関する調査」において、“登記簿では所有者が不明な土地”が全体の20.1%もあることが判明しました。そして、その3分の2は「相続登記が行われていない」ことが原因でした。
不動産を相続した場合、相続登記の際に登録免許税が課税されるほか司法書士の手数料もかかります。更に、永続的に固定資産税が課税され続けます。このため、不要な不動産を相続しても相続登記をしないことがあったと思われます。
この解決策の一つとして、いよいよ相続土地国庫帰属法が4月27日に施行されます。これによって、相続により取得した土地を国庫に帰属させる(放棄する)道が開かれます。
◆ 手続きの流れ
①申請対象の土地が所在する都道府県の法務局に承認申請します。本制度の開始前に相続により取得していた土地も申請の対象になりますが、対象は「土地」のみです。
②法務局が審査し、承認するか、却下・不承認するかを決めます。
③承認された場合、10年分の土地管理費相当額の負担金を納付します。
・この負担金は(1)宅地、(2)田畑、(3)森林、(4)その他に応じて金額が算定されます。
・(1)(2)(4)は原則として面積にかかわらず20万円とされていますが、(1)では市街化区域や用途地域が指定されている地域内は別の算定式があり、(2)では市街化区域内農地や農用地区域内の農地等は別の算定式があります。
④負担金を納付したことにより、この土地は国庫に帰属します。
◆ 国は必ず引き取るのか?
モラルハザード防止のために、実は以下の①②記載のかなり厳しい要件があります。少なくとも、建物や地下埋設物を撤去し、隣地の境界を明確にしておく必要があります。
①却下要件・・・該当すれば却下される。
A 建物がある土地
B 担保権や使用収益権が設定されている土地
C 他人の利用が予定されている土地
D 土壌汚染されている土地
E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
②不承認要件・・・却下すべきか否かが個別に判断される。
A 一定の勾配・高さの崖があって、かつ、管理に過分な費用・労力がかかる土地
(勾配が30度以上、かつ、高さが5m以上であって、通常の管理に当たり過分な費用又は労力を要する場合)
B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
・災害の危険により、土地周辺の人や財産に被害を生じさせるおそれを防止するため、措置が必要な土地
・土地に生息する動物により、土地や土地周辺の人・農産物・樹木に被害を生じさせる土地
・適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が必要な森林 等
相続土地国庫帰属法の要件はかなり厳しいですが、土地の管理放棄を防止する選択肢が広がります。なお、2024年4月からは、相続登記の申請が義務化されます。
この記事を書いた人
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専門分野
相続、民事信託、不動産、金融・資産運用、成年後見
主な資格
不動産鑑定士、 1級FP技能士(CFP®)、1級金融窓口サービス技能士、不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士 、相続カウンセル
略歴
大阪大学卒、東亜大学大学院法学修士。大手信託銀行で経営本部、不動産部門等に従事した後、相続・遺言業務を統括しつつ、民事信託商品の組成にも尽力してきた。
その後、亜細亜大学法学部非常勤講師(信託法担当)、横浜家庭裁判所家事調停委員、横浜市審議会委員を歴任。
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