【ブログ】遺言に不動産を含めるときは要注意!
お子さまへの円滑な資産承継を実現するには、遺言書の作成は有効な手段です。ただし、不動産を遺産目録に加える場合には、特段の注意が必要です。
私の場合は母が以前から公正証書遺言を作成してありました。ところがいざ相続になるといくつかの課題が明らかになり、相続人間で改めて協議が必要になりました。最終的には遺言を破棄し、新たな遺産分割協議書を作成して相続を完了させました。
不動産を含む相続を円滑に進めるためには、遺言作成時にどのような点に留意すべきか、実体験を基にご紹介します。
遺言の内容
被相続人は母、相続人は兄と妹の二名。不動産はすべて母との共有でしたが、遺言書では以下のとおりに指定されていました。
【図:相続不動産の配置図】 (筆者作成)

- A:兄
- B:土地および建物ともに妹
- C:兄・妹の共有
Aは将来兄が住宅を建てることを想定した土地であり、Cは公道からAへの通路としての使用を前提としており、これらの土地はあらかじめ分筆されていました。A、B、Cの境界にはフェンスなどの仕切りがなく、AおよびCはBの住居の庭として使われており、多数の植木が植えられていました。
相続発生時の相続人の状況
兄は配偶者および子との三人家族で、相続の数年前にすでに自宅を取得していました。そのため、当面はAの土地を利用する予定はありません。また、兄の子はこの土地を訪れたことがほとんどなく、特段の愛着も持っていませんでした。妹は独身で、母と同居していたBの住宅にそのまま一人で住み続けることとなりました。
不動産の維持・管理コストが遺言見直しの契機に
問題となったのは、固定資産税などの維持費と、植木の剪定や雑草の処理といった管理の費用と手間でした。兄は、使用予定のない土地について、毎年税金を負担しなければなりません。さらに、AやCの植木の剪定や雑草の除去については、どの時期に、どの業者に依頼すれば妹に納得してもらえるかといった実務上の課題も浮上しました。
将来的な資産承継にも課題がありました。活用の見込みがない不動産の維持・管理コストを、兄の子が将来にわたって負担し続けることへの不満から、妹と兄の子との間で紛争が生じる可能性が懸念されました。
遺言で所有者を指定すれば維持・管理コストも当然に負担されるのか?
「公正証書遺言で不動産の相続人を指定しておけば、その維持費や管理の費用と手間は当然その者が負担する」と考えがちですが、実際にはそう単純ではありません。
たとえば、共有地にかかる固定資産税や都市計画税の納税通知書は、居住者がいれば、その者宛に送付されるのが一般的です。また、剪定しない植木や繁茂した雑草などの影響を受けるのは敷地内の居住者であり、非居住の所有者には直接的な不都合がありません。そのため、非居住者が支払いを渋ったり管理を怠った場合、居住者が立て替えたり自ら対応せざるを得なくなります。しかもこうした費用や手間は毎年必ず発生します。これでは居住者は安心できません。
本件では、相続財産に一定の金融資産が含まれていたため、その大半を妹が取得し、その代わりとして妹が生存中はA、Cの維持・管理コストを妹が負担するという内容で合意が成立しました。仮に不動産のみが相続財産であったら協議は難航していたでしょう。
次世代への相続も視野に入れて
少子高齢化の進展により、不動産の価値や位置づけは大きく変化しています。「希少だから相続すべき」といった価値観は過去のものとなりつつあり、現在では「子どもに“負”動産を残さない工夫」が親世代の責任として問われています。
兄は、相続時に改めて「この不動産を子どもに遺したいか」も考えました。土地Aは公道に直接面しておらず、Cという共有通路を通じてしかアクセスできない、いわゆる「旗竿地」であり、評価額は相対的に低く、利便性も限定的です。しかし、妹の相続発生時にはA・B・Cの三筆の土地が一体として扱えるようになり、資産としての使い道も広がると見込まれます。
兄は、「その時までの維持・管理の負担を回避できれば、子に引き継ぐにふさわしい不動産になり得る」と判断したのです。
まとめ
不動産の相続では、単に「誰に何を遺すか」だけでなく、「遺された不動産が相続人にとって本当に必要かどうか」を慎重に考えることが重要です。また、不動産の維持・管理が円滑に進み、その負担が将来のトラブルや不満の原因とならないかにも配慮する必要があります。もし相続人の状況が大きく変わった場合は、遺言の内容を見直し、必要に応じて思い切って書き直すことも検討しましょう。
この記事を書いた人

- KFSC所属 ファイナンシャルプランナー
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専門分野
ライフプランニング、相続、相続不動産売却、成年後見制度
主な資格
AFP・2級FP技能士
略歴
一橋大学・社会学部卒。三井物産㈱及び関連会社にて、原油・LNG物流事業、豪州や中東のLNGプロジェクト事業、排出権事業、石油探鉱開発事業、人事総務業務等に従事し定年退職。
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